大須・南寺町アート会館

OSU Minamiteramachi Art Gallery

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【開催中】Kasadera Gallery佐野行徳 作品展 -景色を開く-

今回は私が惚れ込んで岡山からお招きした佐野行徳さんの作品展で、名古屋初出品という貴重な機会です。偶然と必然、素材と記憶、風景と抽象が交差する時間。きっとこの作品を通して、ご自身のなかにある日本人の美意識を再確認していただけると思います。フラットな気持ちでただ美しいと感じていただける感覚をお楽しみください。※宿泊されないお客様にも鑑賞いただけますので、ぜひご高覧くださいませ。 ※■展示場所は大須・南寺町アート会館ではありません。

佐野 行徳よりごあいさつ

このたびKasaderaGalleryでは、企画展《佐野行徳作品展―景色を開く―》を開催いたします。

作品タイトルに掲げられた「けしき(KESHIKI)」は、古来より陶磁器の鑑賞で用いられる「景色」という語に由来します。窯の中で釉薬や土が高温に融け、思いがけない化学変化を経て生まれる独特の色・形・質感は、茶の湯の世界において身近な風景や和歌の情景などに見立てられ、銘を授かり、長く愛されてきました。佐野は、この偶然を肯定的に受けとめ、私たちの感覚の中に自然や時間の痕跡を招き入れる日本固有の美意識に深い関心を寄せています。

日本人は古来、移ろう季節や一瞬の光の変化に敏感であり、桜の散り際や川面の揺らぎに“無常”を感じ取る文化を育んできました。その感覚は、西洋の絵画をも独自の視線で受け止めることにつながっています。たとえば印象派の筆致やマチエールは、美術史的な文脈の中で理解される一方で、日本人の眼差しにおいては、それらが水墨画のにじみや書の筆運び、あるいは陶器の釉薬が見せる「景色」と響き合うものとして、より感覚的・装飾的に味わわれてきたのではないか――そのような視点から日本人の視覚的受容の在り方を考察するなかで、佐野は次第に、自身の制作においてもそうした美意識の在処を探るようになっていきました。

 本展《景色を開く》は、その「景色」の感覚を絵画の平面へ転換し、西洋絵画の枠組みに新たな余白を差し込む試みです。絵具のにじみ、意図せずこぼれた滴、乾く途中で刻まれたかすかな痕跡――制作過程で入り込む偶然をあえて制御せず留めることで、意味や構図の外側にある“無意図”を画面に宿しました。物語を持たない不定形な層の重なりと揺らぎに静かに向き合うとき、鑑賞者のまなざしはゆるやかにひらき、内に眠る記憶や感情が呼び覚まされます。そして、感覚と時間の層を媒介に、一人ひとりの心の深層で固有の〈景色〉が心的風景として密やかに生成されていくことでしょう。

ここでは、あらかじめ定められた意味を受け取るのではなく、見るという行為そのものの中で生まれ出る情景のわずかな兆しを味わっていただくことこそが、本展の核となります。偶然と必然、素材と記憶、風景と抽象が交差する時間を、どうぞお楽しみください。

作品について

平面作品

絵画作品は主に木製パネルに石膏やアクリル絵具をのせてベースを作ります。それを削ったり、磨いたり、焼いたり、塗ったり、また削ったり・・・という作業を何度も何度も繰り返すうちに、焼き物の 表面や酸化した金属などを想起させる、独特な表面へとたどり着きます。

版画作品 コラグラフ

佐野独自の技法

版画作品はコラグラフという凹版画の技法により制作しています。コラージュや石膏によって凹凸が作られた版にインクをのせ、プレス機によって刷る行程を100回以上繰り返すと、ある時予想を超えた美しい色彩や、インクの積層による独特な表情を持つ表層に出会います。これらの作品はひとつの版を一枚の和紙の左右に幾度となく刷り重ねることで作られています。ランダムに選んだインクとプレス機の圧力によって偶然現れる表層が幾重にも重なり、美しい「けしき」として現れる「そのとき」まで、一連の行程を続けます。

作家について

佐野行徳

[さの ぎょうとく] 美術作家

島根県松江市出身。1998年岡山大学大学院修了。主に絵画作品シリーズ「KESHIKI」をはじめ、コラグラフ[版画の技法の一種]の手法を取り入れたモノタイプ版画、インスタレーションや陶芸など、様々な素材で作品を展開。また海岸で採取したビーチグラスを用いたインスタレーションなど、その表現手法は多岐にわたる。

略歴

1996 大分大学教育学部 卒業
1998 岡山大学大学院 教育学研究科 修了
    現在岡山市を拠点に活動

個展

2020 「いつか見た景色」 岡アートギャラリー/岡山県岡山市
2016 「けしきのかたち」 由布院駅アートホール/大分県由布市
2014 「けしきのかたち」 CAFE×ATELIER Z/岡山県岡山市
2005 「旅硝子」 岡山上之町會舘/岡山県岡山市
2002 「佐野行徳展」 小野画廊/東京都中央区銀座
2000 「けしき̶変わりゆくもの」 島根県立美術館ギャラリー/島根県松江市

グループ展

2021~23 「Vivid Now 工芸展」 岡山高島屋美術画廊/岡山県岡山市
2019 「Independent Tokyo 2019」 浅草橋ヒューリックホール/東京都台東区浅草橋
2005 「倉敷現代アートビエンナーレ西日本」 大原美術館児島虎次郎記念館/岡山県倉敷市
2000 「ジェイワンアートオーディション」/東京都港区青山
1997 「国際丹南アートフェスティバル’97 鉄・土・木・紙と現代美術展」 武生市民ホール福井県武生市
1995 「島原アートプロジェクト『復興にKISS展』」 旧島原グランドホテル/長崎県島原市